目に見えないからこそ差がつくネットワーク距離およびレイテンシの考え方とSolana環境への応用

目に見えないからこそ差がつくネットワーク距離およびレイテンシの考え方とSolana環境への応用

2025.10.08
ネットワークやインターネットのスピードは目に見えづらく、どう速くすることができるのかイメージしづらいため、憶測が先行しやすい分野です。とはいえ、インターネットは通信技術であり、明確な基礎があります。すべての情報はケーブル内、光ファイバーの中を通る光で運ばれ、ケーブル長とスイッチの影響、そして日々どこかで必ず発生している事故やメンテナンス、改善の影響を受けながら動いています。
参加者が多く規模が大きいため複雑に見えますが、動いている原則は意外とシンプルです。特殊な技術で瞬間移動が起きることはありません。物理法則に反する事象も起きません。だからこそ、ネットワーク距離を味方にすることが、高速化の唯一の再現性ある戦略になります。

インターネットの基礎原則はシンプルに「近ければ速い」

光ファイバーのケーブル長が短いほど、交差点に相当するスイッチの数が少ないほど、往復時間は短くなります。遠距離になるほど経由点は増え、経路の混み具合や工事状況の影響を受けやすく、到着時刻のばらつきも大きくなります。近いほどばらつきは小さく、再現性が高まります。これは旅行の直感で理解できます。近場はだいたい予定どおりですが、遠出において到着時間は大きく変動します。ネットワークでも同じです。だから金融業界では、ケーブル長をセンチ単位で管理し、距離に価格が付くほど徹底します。距離を詰めることが成果そのものに直結するからです。
ネットワークスピードの指標としてよく使われる Bandwidth は、1Gbps、10Gbps、25Gbps と表現されます。これは車線数に相当します。数字が大きいほど同時に通れるデータの量が増え、混みづらくなります。近くて車線が多いことが、大量データを高速に運ぶときの基本です。

速度の直感を取り戻す

ネットワークを考えるときは、自分が車で移動していると想像してみてください。出発点は自分のサーバー、到着点は目標のサーバーです。近場はシンプルで速く、事故や渋滞のリスクも小さい。長距離は交差点や高速道路、トンネルをいくつも経由し、どこかで混み合うことがあります。毎日状況が同じとは限らない中、遠ければ遠いほどルート上での事故遭遇率は高まります。目的地を近づけることが、最速であり最安定への最短路です。

金融業界が距離に価格を付ける理由

例えばニューヨーク証券所のデータを扱うなら、ニューヨークにサーバーを置けば良いことは直感的にわかりやすいです。
もっと言えば、ターゲットのサーバーから数センチのケーブル長を確保できれば最高です。これは相当なプレミアム価格が付く領域です。
常にデータソースが一箇所なので、最適解は明快です。ケーブル長を詰めることが処理の早さと確実さを両立させるため、金融ではラック位置にプレミアムが付きます。単純に近いと速いからです。

Solana の現実と勝ち筋

Solana では、各スロットでリーダーバリデータが交代し、取り込みとブロック生成を担当します。データソースは時々刻々と世界を移動します。現状ではフランクフルトにバリデータが集中しており、およそ 20〜27% が存在しています。フランクフルトが Solana 用途で最も人気であるのは、この地理的条件が理由の一つです。
ただし、究極を目指すプロフェッショナルはここで止まりません。主要リージョンのすべてに自分のリソースを配備し、ターゲットとなるリーダースロットの近傍で処理を行う体制を敷いています。すべてを狙うのは現実的でなくても、各地にこうした体制が存在する以上、そこで戦うなら戦い方は決まっています。まず Solana バリデータの位置を把握し、自分のリソースの位置を決め、チャンスゾーンの時間帯を見極めることです。
ここで最速の第一歩を明確にしておきます。フランクフルトのバリデータがリーダーのときはフランクフルトのネットワーク内にいるサーバーを使う。ニューヨークのバリデータがリーダーのときはニューヨークのネットワーク内にいるサーバーを使う。まずはこの原則を徹底することが、最短で届く現実的な戦略となります。
Solana Validators Map

アプリケーションの位置がレイテンシを決める

速度はサーバースペックだけで決まりません。アプリケーションがどこにいるかが同等に重要です。フランクフルトで起きていることを東京から監視するのは不利です。往復レイテンシだけで遅れが蓄積し、常に後手に回ります。各拠点にリソースを用意し、現地で受けて現地で処理を完結させるか、最短経路で次の現地へバイパスする構成が、カバー率と即応性を高めます。ここで冒頭の原則に戻ります。フランクフルトのリーダーにはフランクフルトのネットワークで、ニューヨークのリーダーにはニューヨークのネットワークで。まずはこれを丁寧にやることです。
ERPCはこれらの原則のもと、皆様に最適なネットワークおよびサーバーリソース、アプリケーション配置の選択肢を提供しています。
また、Solana のバリデータ情報およびリーダーは刻一刻と変化していきますが、その変化を簡単に追跡できるAPIの提供も行っており、プラットフォーム全体で総合的なサポートを実施しています。

瞬間的な「近さ」をデータで扱うためのリーダースロット API

本来なら、エポックの現在地を把握し、直近の平均スロット時間から切り替わりの見当を付け、リーダー候補を取り出し、クラスタのノード一覧と突き合わせ、ジオロケーションの誤差に注意しながら実測 ping を重ね、結果を蓄積して更新するという流れが必要です。これを毎エポック回し続けるには、高度なデータ基盤が欠かせません。
私達はこの一連の面倒を解消するために、すでにリーダースロット情報API(getLeaderSlots API)を提供しています。ERPC の利用クレジットを持つユーザーは、この API でリーダースロットのスケジュール、バリデータの位置情報、参考用の ping 値を取得できます。実運用に必要な「どこが今近いのか」や「どの時間帯にフランクフルトがリーダーに近いか」といった情報を、Solana RPC と同じ要領で取得できます。
getLeaderSlots API利用例
一般に、参照地点からの ping が 100ms を超える場合、そのリーダーへの直接アプローチは効率が低下します。大陸をまたぐ通信は 100ms を超えがちです。例えばフランクフルト拠点からニューヨークリージョンのリーダーに接続するより、ニューヨーク拠点の資源を活用した方が検知も送信も有利です。getLeaderSlots API は、この判断を現実のレイテンシにもとづいて進められるように設計されています。

ネットワーク距離は必ずしも地図どおりではない

直線距離が近く見えても、ネットワーク的には遠いことがあります。通信は光ファイバーやルーター、スイッチを経由して進むため、データが必ずしも地図上の最短ルートを通るとは限りません。 ヨーロッパ内でも、地図上ではフランクフルトの方が近く見えるのに、実際の通信経路や回線の混雑状況によっては、アムステルダム経由の方が速いというケースも散見されます。
この課題を解消するため、ERPC では Solana 共有エンドポイントの全面アップグレードを実施しました。すべてのリージョンで ping ベースの自動ルーティングを導入し、ユーザーの実際のネットワーク距離にもとづいて最短経路を自動選択できるようになりました。
従来の IP 位置情報ベースのルーティングでは、登録情報の誤差や古いデータにより、地図上では近くても経路としては遠回りになることも多くありました。今回のシステムでは、ホワイトリスト登録された IP に対して各リージョンのエンドポイントから自動で ping 測定を行い、その結果をグローバルに集計して最短経路を決定します。これにより、常に実測ベースの最短経路を選択でき、IP 情報依存のルーティングは完全に廃止されました。
ping ベース自動ルーティングは、個々のユーザーにとって最短経路での高速通信を実現するだけでなく、全体としてのネットワーク効率も高めます。 全員が自分にとって最短の経路を使うことで、遠距離通信の負荷が減り、グローバル全体での混雑が緩和されます。結果として、世界中のユーザーがより安定したレスポンスで Solana ネットワークにアクセスできる環境が整いました。

Solana RPC Bundle プラン

Bundle Plan
多くの開発者はまず Geyser gRPC から Solana のリアルタイムストリーム活用を始めます。すでにデコードされたデータを扱えるため導入が容易で、実装例も豊富で学習コストが低いからです。
一方で、プロはより高速な Shredstream を使います。現在のアプリを gRPC で安定稼働させつつ、より高速な Shreds の恩恵を並行開発で取り込むという実務的なニーズが強く、Bundle はこの需要を満たします。
これまで「もっと速いコネクションに挑戦したい」のに、環境整備やコストの壁で踏み出しづらい状況が続いていました。
Bundle では本番利用を想定した RPC と gRPC のコネクションを持っていれば、それよりも安い価格で Shredstream がセットになります。むしろ安くなるパック料金設定により、導入の心理的な障壁を取り除きました。
まずは RPC + gRPC でベースアプリを素早く構築し、その同じ環境の中で Shredstream を学びながら高性能化に移行できます。強者は Shredstream 単体で processed と confirmed の両方のデータを直接取り込みますが、そのためには独自にカスタマイズしたクライアントの開発が必要です。Bundle はまず Shredstream を確実に受け取れる経路を用意することで、この高度なステップへの橋渡しをします。
Bundle の gRPC もフィルター制限がなく、プロダクトの開発中は RPC の Devnet と Testnet にも対応します。
Solana 開発のスタートに最適であり、そのまま本番運用へスムーズに移行できる実戦的なプロダクトです。
導入や移行のご相談は Validators DAO 公式 Discord より受け付けています。

Premium Ryzen VPS

Premium Ryzen VPS
ERPC と同一ネットワーク内で稼働する Premium Ryzen VPS は、世界最速クラスの 5.7GHz 高クロック CPU、ECC DDR5 メモリ、NVMe4 ストレージ、25Gbps ×2 のネットワークを備えています。オーバーコミットを一切行わない設計により、仮想化でありながらベアメタル級の安定性能を発揮します。
主要 Solana バリデータや Jito Shredstream と同一データセンターに配置されており、ゼロ距離接続によってインターネット経由の遅延を排除。性能とコスト効率を両立した構成として、多くのプロジェクトから高く評価されています。

ERPC、Validators DAOが解決する課題

  • 一般的なRPC環境で発生しがちなトランザクション失敗やレイテンシ変動
  • 多くのインフラプロバイダーによる性能制限
  • ネットワーク距離が通信品質に与える影響の大きさ
  • 小規模プロジェクトほど高品質インフラへアクセスしづらい状況
私達は、オープンソース開発を支援する Solana NFT カードゲームプロジェクト Epics DAO の開発過程で、高品質かつ高速な Solana 開発環境が容易に手に入らないという課題に直面しました。そこで独自のプラットフォームを構築し、その知見を基盤として ERPC や SLV を提供しています。
金融分野のアプリケーションは特にミッションクリティカルであり、遅延やエラーは直接ユーザー体験に影響します。分散したバリデータや Web3 特有の構造が重なり合う Solana 開発では全体像の把握が難しく、多くのプロジェクトが遅延や不安定さに悩まされてきました。
私達は必要とされる高性能な開発基盤を提供し、Solana エコシステム全体の開発体験とユーザー体験の向上に貢献していきます。ERPC も SLV も、その一環として位置付けています。